◆ヒマもてあますとロクなこと考えん
ここしばらく、書棚にある矢口高雄のマンガ作品を、読み続けている。 矢口高雄の蔵書は67冊あるが、終始一貫して人と自然の関わりを、そのテーマとしている。 何度読み返しても作品世界に引き込まれ、読後の充実感・満足感には格別のものがある。 今回読んだのは、『釣りバカたち第一巻「山女魚・岩魚」編』である。 その中の「第十一話いろはトンボ」に、こんなシーンがあった。
労爺が、独りで営む炭焼き小屋に、びしょ濡れになった女が「泊めて下さい」と訪れてきた。 浮気がバレて、自殺しぞこなった人妻だった。 人妻 「ごくふつうに恋をして結婚して……子どももうまれてなんの不自由もないくらしだったわ。 でもあまり不自由のないくらしって……とってもたいくつなことなのネ……そんなあたしの心のすき間に彼は入ってきたのよ」 労爺 「するってえとご主人にバレちまったんで急きょ駆け落ちという行動に出たちゅうわけけえ!?」 人妻 「死のうと思ったの……でもダメだったわ。 急に目の前に子どもの顔がちらつき……耳もとであたしの名を呼ぶ主人の声がするの……どうしてあたしこうなったのかしら」 労爺 「奥さん!? おめえさんの考えはちょいとムシが良すぎるんじゃねえのけえ? 人間のしあわせなんてもんは時折りおとづれるはげしい感情なんかじゃあ得られんと思うな…… ただひたすら日常をつつしみ深く生きる暮しのなかにこそホントのしあわせちゅうもんがあるんじゃねえのかな」 労爺は、人妻に焼きあがった炭の窯出しを手伝わせ、やがてそれは無事終わった。 人妻 「うわ〜〜〜っ気持ちいい……仕事をして汗を流すってこんなに気持ちのいいことなのネ」 労爺 「そのとおりじゃよ。 人間なんてヒマをもてあましてるとロクなことを考えんからな」
◆ひとり時間の効用
『釣りバカたち・・・』を読み終えた翌日、『日本経済新聞』(令和6年8月16日)を読んでいると、次の記事が目に入った。
『「ひとり」が生む商機を逃すな』(博報堂生活総合研究所 上席研究員 内浜大輔)
博報堂生活総合研究所が2023年に20〜69歳を対象に実施した調査では、「みんな」より「ひとり」でいる方が好きという人が78%に上った。 背景のひとつにインターネットやSNS(交流サイト)が生活に入りこむ環境下で、常時他者の情報を浴び、やりとりする「接続過剰」がある。 接続過剰とのバランスをとるべく、生活者はひとりの時間を持ちたいと望むようになっているようだ。 ひとり時間の効用は多岐にわたるが、ひとりだからこそ何かに没入して体験・鑑賞できたり、内省を通して自分の考えを再発見できたり、身軽に新たな挑戦ができたり、と誰かと一緒では得られない積極的なものが多い。…… ひとりを前向きに捉え、生かそうという視点を持つことが、……生活者の活性化につながるカギとなるはずだ。
仕事を辞め、毎日ひとり時間を過ごす身にとって、「ヒマもてあますとロクなこと考えん」と「ひとり時間の効用」といった言葉は、正に「我が意を得たり!」心に突き刺さるものがある。 幸い、今のところ「ヒマをもてあます」ことはないし、「ひとり時間」を堪能出来ている。 ありがたいことだと思わずにはいられない。 だからこそ、「頭を働かし」「身体を動かし」「刺激を求め」「安全を考え」の4つをベースに、「読み」「書き」「歩き」「呑む」の4拍子を大切にしていきたい、と改めて自戒せずにはいられない。
2024.8.17
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